第4回 強迫性障害(強迫症、OCD):症状と診断

強迫性障害(強迫症)は、英語では、Obsessive Compulsive Disorderと表記され、OCDと略されます。以前は、強迫神経症と言われたこともありますが、神経症ですと性格が要因のような誤った印象を与えかねないため、現在は強迫症という呼称が徹底されています。また、原因が明らかになるにつれて、独立した精神疾患と考えられるようになり、最新の診断体系では、不安症(不安障害)と別個に位置づけられるにいたりました。

強迫性障害にかかる人は人口の1.2~2.6%と見積もられています。
その経過は、10代から20代にかけて、緩やかに発症し、症状は強弱をつけながら、徐々に悪化することが多いです。また、ある日の出来事をきっかけに急激に悪化するケースも2~3割程度いるという報告もあります。
日本では、発症から専門医受診まで、平均で8年間を要するという報告がなされているように、皆さん、自分自身の中だけで苦しまれており、最終的に対処できなくなって、精神科を受診しているということになります。
世界保健機関(WHO)は失業率や生活の質の低下させるという観点から、最も負担の大きい病気の上位10位にランクされたこともあります。したがって、「神経質だ」「気にしすぎだ」という風に流せるような軽い病気ではありません。

その症状は多岐に渡りますが、概ね下記の5タイプに集約されると考えます。
① 不潔(汚染)恐怖/洗浄強迫
② 確実性への疑念/確認行為
③ 加害恐怖・タブー思考/打ち消すための儀式行為や反すう思考
④ 秩序へのこだわり(形、色、並び、数字、ルールなど)/並び替えや数えるといった行為
⑤ ためこみ(捨てられない)

これらの強迫観念ですが、内容も形式も程度も多様です。
内容は上記の5パターンで概ね網羅されますが、例えば不潔恐怖も単に汚れが嫌だというケースから、感染を恐れるケースまで、様々です。
加害恐怖も、迷惑をかける(かけた)ことを気に病むことから、大切な家族に対して重大な危害を加える映像や光景が思い浮かんで悩む事まであります。内容によっては、深刻な妄想だと思われないかという怖れから、誰にも言えず年単位で思い悩んでいるケースも稀ではありません。診察に来られても、その辺りの事は秘めたまま、「気持ちが落ち込む、自信がない、何となく不安だ」といった、強迫症状の結果としての不安およびうつ状態にしか触れない方も多いです。
実際に、精神科や心療内科に通院して、うつ病や自律神経失調症といわれ、治療を受けている方でも、丁寧な問診を通じて診断を行えば、その本態は強迫性障害であることが明らかとなるケースも多いです。

強迫観念の形式ですが、「考え」のこともあれば、「映像や光景」のこともありますし、「嫌悪感や不快感」「しっくりこない」ということもあります。これらの強迫観念が、様々なタイミングで頭に浮かび、集中力を妨げるといった程度から恐怖心からパニックに陥るまで、程度にもばらつきがあります。

当院を受診される患者様も、当初は自身の強迫症状を十分に自覚したり理解されておりません。強迫症状をコントロールできなくなった結果、仕事や学校生活、日常生活に支障を来して受診されますが、結果の辛い状態にばかり、話の焦点が向けられてしまいがちです。
丁寧な面接により、背景に存在する症状のメカニズムを把握することが、診断および治療の第一歩となります。

なお、軽度の侵入的(意識に入り込んでくる)な観念は、殆どの方に存在しますが、侵入的な観念について、上記の5タイプでカバーされるようなOCD特有の内容であり、それによって影響を受ける時間が1日で1時間以上となると、OCDと診断されます。

次回は、強迫症状が悪化する仕組みについて、解説していきます。

奈良こころとからだのクリニック
精神科・心療内科・内科
近鉄「大和八木駅」から徒歩2分

\