第5回 強迫性障害(強迫症、OCD):症状が悪化する仕組みと治療

強迫症状は、最初は少し気になる程度および頻度は比較的弱い場合が多いです。
もちろん、ある時点から強烈な強迫症状におそわれるケースもあります。
いずれにせよ、徐々に悪化していくことが多い疾患です。今回は、その仕組みについて、解説していきます。

当初の強迫観念は、基本的には、患者さんにおいて「理屈にあわない」「ばからしいもの」「不安や不快感(気持ち悪い)を引き起こすもの」であったりします。前回解説したような様々な強迫観念が、日常生活において、意識に度々入り込みます。当初は、気にしないようにしたり、無視したりという対応が可能な場合もありますが、徐々に振り払えなくなります。
そして、強迫観念による不安を取り除くべく、強迫行為を行うようになります。一番わかりやすい例でいえば、「家の鍵をきちんと閉めたのかな」という確実性に対する疑念が生じた時に、家に戻って確認するという確認強迫行為に及ぶというものです。実際に確認しても、鍵を閉め忘れている事は殆どありませんが、この時の安ど感(ほっとする感覚)によって、強迫観念が和らぎます。このほっとする、和らぐ感覚に対して依存的となり、強迫観念が湧くたびに強迫行為をするようになっていく訳です。
特に、この安ど感は長くは続くことはなく、徐々に強迫観念の出現頻度や強度が強くなっていく事も症状の悪化に拍車をかけるわけです。最終的には、ご自身では、強迫観念が馬鹿げているとわかっていても、強迫行為がその瞬間的にしか効果のないことだと分かっていても、止められない状態となるわけです。これが、いわゆる「わかっているけれども止められない」という強迫性障害の特徴的な状態となるわけです。
また、症状が強い期間が年単位で続くと、自分の症状が正しい、周囲が間違っていると思うようになることも稀ではありません。こうなると、「分かってもいないし、止める気もない」という状態になり、難治化します。
日本では、強迫性障害は発症してから専門医の受診に至るまで、8~10年を要すると言われており、欧米でも似たような状況となっております。どんな病気でも早期発見、早期治療が肝心ですので、今後の受診状況の改善を期待したいところです。

さて、治療ですが、お薬による治療(薬物療法)と認知行動療法の併用が推奨されています。
薬物療法としては、SSRI(抗うつ薬の一種)に加え、増強療法として少量のドパミン受容体拮抗薬を使用することが方法論として確立されています。SSRIについては、現在、日本では4種類の選択肢があります。個人差もありますし、それぞれの薬剤の差異もあります。抗うつ効果が出現するのは概ね1~2週間であるのに対し、強迫症状に対する効果が得られるには、4~8週間を要する事が多いです。そのため、担当医ときちんとコミュニケーションをとりながら、治療を継続する必要性があります。
なお、抗不安薬については、強迫観念の出現頻度を低下させはしないことに加え、強迫性障害が中長期に渡る疾患であることを考えると、耐性・依存性の問題もあり、意義が乏しいと思われます。

認知行動療法も、その技法は多岐に渡ります。
曝露反応妨害法はその一技法に過ぎませんし、強迫症状によって適用しやすい、しにくいという差異があります。
例えば、不潔恐怖から洗浄強迫(例:過剰な手洗い)などは、方法論的にも確立されているため、行動療法のメニューが立てやすいです。一方で、患者様と担当医で、試行錯誤しながらメニューを作成し取り組むケースもあります。特に、非典型的な強迫症状については、その本質を患者様および担当医が把握することが極めて大切で、その把握に十分に診療時間をかける事が大切です。当院で治療を行う場合、強迫症状の本質(メカニズム)の把握について、徹底的に時間をかけております。
また、メニュー作成は容易でも、そのメニューを簡単に実行できるかというと、それは別問題です。認知行動療法を成功させるには、医師が1人1人の患者様特有の強迫症状をしっかりと把握したうえで、患者様が十分な理解を得られるよう、十分なモチベーションが持てるようサポートすることが大切です。
薬物療法もそうですが、担当医との2人3脚で試行錯誤を繰り返しながら、根気強く治療を継続していく事が大切です。

当院では、強迫性障害に対する薬物療法および認知行動療法に積極的に取り組んでおりますので、症状に悩まれている方はご相談ください。

奈良こころとからだのクリニック
精神科・心療内科・内科
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