第2回 不安について:不安障害(不安症)

多くの方が様々な不安を抱えています。

不安を感じない人など、おられません。

本来、不安を感じること自体は異常ではなく適応的な感情です。

不安を感じるからこそ、人はミスやアクシデント、危険性を避けるよう注意します。

不安があるからこそ、人は努力し、多くの事を達成していくともいえるでしょう。

しかし、その不安が高まり過ぎて、日常生活(学校や職場、家庭生活等)に支障を来してしまうと、適応的とはいえなくなります。その程度が重くなれば、治療が望ましくなってきます。

では、どのような不安が治療対象になるのか、ということですが、① 不安の程度 ② 不安の対象、不安が生じるメカニズム の2点から、判断していきます。

②の内容によっては、診断カテゴリー(精神疾患の種類)が変わってきますし、治療のアプローチも異なってきます。

現在、世界保健機関(WHO)が公表している「国際疾病分類第10版(ICD-10)」や、米国精神医学会による「精神障害の診断と統計の手引き第5版(DSM-5)」に基づいて、診断を行いますが、ICD-10もDSM-5でも、不安障害をさらに細かく分類しています。

なお、DSM-5では強迫症(強迫性障害)は、不安症(不安障害)から独立した疾患と位置付けられました。強迫症(強迫性障害)については、私自身が研究や治療に取り組んできた疾患でもありますので、別のコラムで詳しく取り上げたいと思います。

さて、不安症(不安障害)は大まかに下記に分類されます。

主に、(1)不安を抱く事柄や状況が比較的特定のものに限られている種々の恐怖症、(2)不安を抱く事柄や状況が特定されておらず様々な事柄や状況で不安になる全般性不安障害、(3)特徴的な身体症状を伴うパニック発作を繰り返すパニック障害、などの物質を摂取することによって不安が生じる物質誘発性不安障害に分けることができるでしょう。以下にそれぞれの障害について簡略に説明します。

恐怖症

不安も恐怖も警告信号である点は同じですが、不安がやや漠然とした未来のことに向けられた信号なのに対して、恐怖はその対象が今目の前に(あるいは頭の中に)はっきり存在している点が違っています。恐怖症の代表的なものに社会恐怖(または社交不安障害)があります。社会恐怖とは、恐怖の対象が「知らない人たちの前で注目を浴びるような社会的状況」であり、その恐怖が過剰であると自他ともに認められるものです。それ以外の特定の恐怖の対象がある場合は、特定の恐怖症という診断名になります。これには高所恐怖、閉所恐怖などさまざまなものがあります。

全般性不安障害

上記の恐怖症とは異なり、特定の対象に限らずほとんどあらゆることに不安を抱くようになるのが全般性不安障害です。ただし、疾患カテゴリーとして、安定したものといえるかは疑問で、フォローしていくと、うつ病となったり、他の不安症へと変遷していくことも多いのも特徴といえます。

パニック障害

パニック発作という、突然に生じる自律神経系の乱れを繰り返すのがパニック障害です。パニック発作の症状には、動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまい、吐き気、しびれや冷感などがあります。数分以内にピークに達するほど急激に生じてくるのもその特徴の1つです。死ぬのではないかなどと恐くなって救急病院を受診する方もいますが、検査をしても異常が見当たらないことが多いです。予期せず繰り返す発作に、1人で外に出るのが恐くなったり、元気がなくなったりすることもあります。

治療

治療は、薬を使う治療(薬物療法)と、対話による治療(精神療法)とがあります。いずれかの方法で治療することもありますが、併用したほうが効果的と考えられています。

不安障害に用いられる主な薬は、抗うつ薬と抗不安薬です。抗うつ薬の中でも、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の有効性が知られています。ただしSSRIは飲み始めてからすぐに効果が出てくるわけではなく、飲み続けることによって徐々に効果が出てくるタイプの薬です。そのため、すぐに効果を出す必要がある場合には不向きであり、こうした場合には抗不安薬を用いる方が適切です。

一方、抗不安薬には、耐性や依存性の問題があります。耐性は、使っているうちに薬に慣れてきて効果が弱くなるという現象です。依存性も2種類あり、身体依存と精神依存があります。身体依存とは、薬を切らすと余計に不安が強くなるような離脱症状が出ることです。精神依存とは、薬がないと不安症状がぶり返すのではないか、という考えから、薬の服用行為そのものに依存するといった状態を指します。こうした耐性や依存性は、速効型の薬を長期間にわたって多量に使用するほど生じやすくなります。そのため、長期にわたって予防的に使うのにはSSRIなどの抗うつ薬を、緊急対応に使うには抗不安薬をというのが、基本的な考え方になると思います。

医師なりカウンセラーとの対話による治療にはさまざまなものがありますが、認知行動療法の有効性が示されております。

奈良こころとからだのクリニックでは、患者様個々に応じた方法を模索しながら、認知行動療法を行っております。

この治療法では、まず各患者様における、症状のメカニズム、たとえば不安が生じるメカニズムなどを学んだり、自分の不安がどれくらい現実的なものかを吟味したり、より現実的な行動はどのようなものかを検討したりします。そして、そこで検討された行動を実行するよう、ホームワークをお願いします。実行する際には、自分が不安になりそうな状況や場面に少しずつ直面して頂きますが、これを段階的曝露(ばくろ)と言います。以前なら不安になって混乱していたような場面でも、適切な行動がとれるようになることを繰り返していくことで、少しずつ自信が生じ、不安になりにくくなることを目指します。そして、誤った結び付け(Aという場面では必ずBという不安が出る)を消去していくことが出来ればゴールに到達したといえます。

どれくらい治療を続ける必要があるかは、個人によってさまざまですので、主治医とよく相談していくのが良いと思います。特に薬物治療は急に中断すると具合が悪くなることがあります。中断や減量から1週間以内に生じる具合の悪さは再発ではなく薬のリバウンド(離脱作用)で生じている可能性があります。再発は薬を中断してから2~3ヵ月以上たってから生じることが多く、長期にわたって経過をみないと再発しないかどうかは分かりません。いずれにしても、担当医と相談しながら計画的に治療を止めていくことが、再発のリスクを低くできるものと思われます。

また、再発したとしても、認知行動療法で身に着けた対応技術によって、服薬なく症状をコントロールできる方もいらっしゃいます。服薬の継続の有無にこだわらずに、最終的には、自分自身のメンタルヘルスを維持できるよう、心構えも含めた対応技術を身に着けて頂けるよう、サポートさせて頂ければと思っております。

奈良こころとからだのクリニック
精神科・心療内科・内科
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